1.   政府は、2001(平成13)年6月12日に公表された司法制度改革審議会報告書を踏まえ、2004(平成16)年3月2日「民事訴訟費用等に関する法律の一部を改正する法律案」を国会に上程し、訴訟上の双方の訴訟代理人の合意による弁護士報酬敗訴者負担制度の導入を図ろうとしている。
  2.  もともと弁護士報酬敗訴者負担制度は、勝訴しても弁護士報酬を相手方から回収できないため訴訟を回避せざるを得なかった当事者にも、その負担の公平化を図って訴訟を利用しやすくする見地から提言された。
  3.  しかし、同制度は、消費者、労働者その他劣位的地位にある当事者が、裁判で争って敗訴した場合に相手方の弁護士報酬を負担することになるので、訴訟を回避することになりかねず、ひいては市民の裁判を受ける権利は抑制されることにつながって、司法制度改革が目指す司法へのアクセスの拡充の理念に反することになる。
  4.  そこで、島根県弁護士会は、これまで常議員会決議、反対署名の呼びかけ等によって、提案された弁護士報酬敗訴者負担制度の導入に反対し、そのための活動を行ってきた。
  5.  ところが、今般、すべての訴訟について各自負担を原則とするものの、訴訟提起後、弁護士等によって代理される訴訟当事者が訴訟上合意したときのみ敗訴者負担とするとの内容の法案が上程された。 
  6.   この法案によっても、敗訴者負担の弊害は解決されない。訴訟上の合意によって敗訴者負担が可能となれば当事者間の裁判外での私的契約や約款などに「敗訴者負担条項」を記載することによる実質的な敗訴者負担制度が広がっていくことが懸念される。このようになれば劣位的地位にある者は、訴訟代理人報酬の敗訴者負担をおそれて訴訟を提起することも受けて立つことも躊躇されることになり、司法アクセスを更に萎縮させることになる。また、当事者双方に弁護士が代理人となっている場合、合意に応じないのは、敗訴を自認するものとして、裁判官の心証に悪影響を及ぼすこともなりかねない。 
  7.   そこで、島根県弁護士会は、この敗訴者負担制度の導入は、たとえ合意を条件とするとしてもなお、司法へのアクセスを阻害する弊害は払拭できないと考えるものであり、その導入を内容とする上記法案には絶対に反対であり、廃案とすべきである。

以上決議する。

2004(平成16)年7月26日
島根県弁護士会
会長 中村 寿夫