広島高等裁判所に現在係属中のいわゆる「光市母子殺害事件」に関して、さきに日本弁護士連合会宛に同事件の弁護人を脅迫する書面が届いたのに続き、報道によれば、新聞各社にも同様の脅迫文書が送付されたとのことである。

 憲法37条3項は、「刑事被告人は、いかなる場合にも資格を有する弁護人を依頼することができる。」と定めている。この弁護人依頼権は、被告人が防御の機会を十分に与えられ、適正な裁判を受けるために必要不可欠の権利であり、人類が歴史を通じて確立してきた刑事裁判の大原則である。光市母子殺害事件の弁護人に対する脅迫行為は、脅迫という卑劣な手段によって被告人の弁護人依頼権を否定しようとするものであって、断じて許すことのできないものである。また、上記脅迫行為は、他の刑事裁判における弁護活動の萎縮をも招きかねないもので、極めて深刻な問題を孕んでいる。

 国連の「弁護士の役割に関する基本原則」第16条は、「政府は、弁護士が脅迫、妨害、困惑あるいは不当な干渉を受けることなく、その専門的職務をすべて果たし得ること、自国内及び国外において、自由に移動し、依頼者と相談し得ること、確立された職務上の義務、基準、倫理に則った行為について、弁護士が起訴あるいは行政的、経済的その他の制裁を受けたり、そのような脅威にさらされないことを保障するものとする」と定めている。時に、弁護人の弁護活動が結果として被害者や遺族の感情を害したり、世間の批判にさらされることは少なくないが、そのような場合であっても、被告人が十分に防御を尽くし適正な裁判を受けるために弁護人の主張・立証活動の自由は最大限保障されなければならない。まして、脅迫という手段を用いてこれに圧力を加えることは言語道断であり、いかなる理由があっても許されてはならない蛮行である。

 当会は、光市母子殺害事件の弁護人に対する脅迫行為に厳重に抗議するととともに、弁護人の役割と弁護活動の自由の重要性についての社会の理解を求めるものである。

2007(平成19)年7月25日
島根県弁護士会
会長 熱田 雅夫