警察庁は、本年6月1日に公布された「少年法等の一部を改正する法律」(以下「改正少年法」という。)の施行にあたり、同年9月6日、「少年警察活動規則(平成14年国家公安委員会規則第20号)の一部を改正する規則」案(以下、「規則案」という。)を公表した。しかし、本規則案には重大な問題があり、特に重大な問題点について以下の通り意見を述べる。

第1 規則案第三章第三節「ぐ犯調査」の規定は削除すべきである。

  1.  規則案は、警察官によるぐ犯調査の規定を新設し、警察官が「ぐ犯少年であると疑うに足りる相当の理由のある者」と判断すれば、当該少年、保護者又は参考人を呼び出し、質問することができること(27条及び触法調査について規定した規則案20条1項の準用)、調査において、「当該少年の性格、行状、経歴、教育程度、環境、家庭の環境、交友関係等について詳細に調査しなければならない」こと(同16条の準用)などを定めている。  
      しかし、上記は、改正少年法についての国会審議において、政府提出案から削除された「ぐ犯少年である疑いのある者」に対する警察官の調査権限を認める規定を、実質的に復活させようとするものであり、容認できない。
     
  2. 「ぐ犯少年」とは、少年法3条1項3号が定める、将来犯罪を犯すおそれのある少年である。
      現行少年法では、警察官がぐ犯少年を発見した場合、14歳以上であれば家庭裁判所に送致することができ、送致の前提としての調査をすることができる、14歳未満であれば児童相談所に通告することができるとされている(6条1項、2項)。
      「ぐ犯少年」は、もともとその範囲が曖昧である。前記政府提出案は、さらに「ぐ犯少年である疑いのある者」即ち「将来犯罪を犯すおそれのある疑いのある者」に対しても警察の調査権限を認めようとするものであった。
      しかし、現在、家庭裁判所に送致される「ぐ犯少年」は年間約800人であるが、「ぐ犯少年である疑いのある者」となると、少なくとも不良少年として補導されている年間約140万人の少年が警察の調査権限の対象にされることになる。これでは警察の権限の範囲・対象が無限に拡大し、歯止めがない。   
     前記国会審議においては、まさにこのような警察権限の無限の拡大のおそれ、人権侵害の危険性が指摘された結果、ぐ犯少年の調査については、現行少年法を維持することで全政党が一致し、最終的に、政府提出案の警察の調査権限の条項から、「ぐ犯少年」の文言は削除されたのである。
      
  3. 国会は国の唯一の立法機関であり、法の支配の原則から、全ての行政機関の権限行使は国会が定めた法律に基づいて行われるべきものである(憲法41条)。 中でも、警察による捜査・調査は刑罰や保護処分という重大な不利益処分の前提手続であるから、特に法律に基づく適正手続によらなければならない(憲法31条)。
     今回の規則案は、前記のような国会審議と法案修正を無視し、法律の条文から削除された条文を、警察が規則の形で制定して自らの権限を拡大しようとするものであって、違憲・違法といわざるを得ない。
     
  4. よって、規則案第三章第三節「ぐ犯調査」の規定は全て削除すべきである。

第2 少年に対する権利告知を義務づける規定をおくべきである。  

  1. 規則案には、調査にあたり、警察官が、少年に対し、弁護士付添人を選任できること、及び、意思に反して供述を強いられないことを告知することが規定されていないが、不十分である。
        
  2. 少年、とりわけ年少少年は一般に被暗示性や被誘導性が強く、調査(事実上の取調べ)による現在の負担から逃れるために、警察官に迎合して虚偽の自白をしてしまう危険が高い。また、重大事件を起こした年少少年の場合、保護者の適切な保護・監護が期待できない事案が少なくない。
     このような指摘を受け、改正少年法の衆議院での審議において、触法少年に対する調査は、「少年の情操の保護に配慮しつつ」行うこと、「質問に当たっては、強制にわたることがあってはならない」ことが規定され、調査に関して弁護士付添人の選任権が明記された。そして、参議院法務委員会では、「触法少年に対する警察官の調査については、一般に被暗示性や被誘導性が強いなどの少年期の特性にかんがみ、特に少年の供述が任意で、かつ、正確なものとなるように配慮する必要があることを関係者に周知徹底すること。また、これら少年に配慮すべき事項等について、児童心理学者等の専門家の意見を踏まえつつ、速やかにその準則を策定すること。」(第1項)等の附帯決議が採択されたのである。
     権利はその存在と内容を知らなければ行使しえないのであり、特に少年の場合、告知されることなく有効に権利を行使することは期待できず、警察の不適切な調査に対する最小限度の抑止のためにも告知規定は不可欠である。
     
  3. よって、規則には、警察官は、調査にあたり、少年に対し、弁護士付添人を選任できること、及び、意思に反して供述を強いられないことを告知しなければならない旨を規定すべきである。

2007(平成19)年10月5日
島根県弁護士会
会長 熱田 雅夫