司法修習制度は、司法試験合格者を統一・公正・平等の理念によって養成した上で裁判官、検察官、弁護士として送りだすことで、法曹三者の公共性と高い資質を維持しようとするものである。そしてその目的を達成するために、司法修習生の兼業を禁じて修習専念義務を課し、修習生の生活を維持するために司法修習期間中の給費制度をとってきた。この意味で、給費制は法曹三者の公共性と高い資質の維持を支えてきたといえる。

 さらに給費制がとられることにより、経済力の多寡に関わらず、能力と意欲のある者が法曹となることが保証されてきた。そして経済的条件に関わらず法曹となり得るということは、広く優秀な人材を求めることができるという意味で、また、多様な社会的背景を持つ法曹が司法制度を担うことになるという意味で、わが国の司法の健全性を保つ上で必要なことである。

 しかるに、国は平成16年の裁判所法改正により本年11月から司法修習生に対し、修習専念義務を課したまま給費制を廃止しようとしている。

 裁判所法が改正された平成16年から新たな法曹養成制度として法科大学院が創設されたが、法科大学院への志願者は年を追うごとに減少している。この背景には、新司法試験の合格率の低下や弁護士の就職難に加えて法科大学院の費用が多額に上り、生活費の負担も大きいことが指摘されている。日本弁護士連合会の調査結果によれば、新63期司法修習生の半数以上が奨学金等の負債を抱え、借入れの最高額は1200万円、平均額は318万8000円である。

 このような現状のもとで給費制を廃止した場合、法科大学院時代の負債に加えて司法修習中にも更に負債を抱えることを余儀なくされ、経済的事情から法曹への道を断念する者が出る事態が危惧され、司法制度改革審議会意見書が法科大学院制度を通じて目指した多様な人材を法曹に求めようとした新しい法曹養成制度の基本理念にも背く結果となる。また、多額の負債を抱えたまま弁護士としての活動を開始したのでは、公益的、公共的活動に積極的に取り組むことは困難になる。

 以上のような給費制の意義や司法修習生が置かれている現状を考えると、給費制の廃止は、我が国の司法制度の根幹を揺るがしかねないものであると同時に市民の権利擁護にも重大な支障が生じかねない。

 よって、当会は、国会、政府、最高裁判所に対し、裁判所法を見直し、司法修習生に対する給費制継続を強く求めるものである。

     平成22(2010)年6月30日

 島根県弁護士会
 会長  中村 寿夫