安倍晋三首相は、本年1月30日の国会答弁で、まずは憲法第96条の改正に取り組む旨を明言した。憲法第96条は憲法改正の発議要件を衆参各院の総議員の3分の2以上の賛成と定めているが、自由民主党は、昨年4月に、日本国憲法改正草案を発表し、同草案において憲法改正の発議要件を衆参各院の総議員の過半数に引き下げる旨を示した。
 しかしながら、憲法改正の発議要件を緩和することには以下の理由から反対である。
 憲法は国家の統治の基本を定めた最高法規であり、その最も重要な役割は国家権力を制限して国民の人権を保障することにある(最高法規性、立憲主義)。
 憲法第96条は憲法改正の要件を法律制定の要件より厳しく定めている(硬性憲法)が、憲法改正の発議要件を引き下げてしまうと、憲法改正を容易に行うことができ、時々の権力者の都合で憲法の条文を定めることができるようになる。その結果、人権が制約されやすい状況を生み出すことになり、立憲主義の趣旨を没却することになる。
 さらに、憲法改正に関する国民投票の手続きについて定めた日本国憲法の改正手続に関する法律には、最低投票率の定めがなく、例えば投票率50%、有効投票率80%と仮定した場合、全有権者の2割程度の賛成でも憲法改正が可能になるなどの問題点が多々指摘されているところである。このように日本国憲法の改正手続に関する法律に重大な問題点がある中で、憲法改正の発議要件を緩和する旨の提案を行うことは、許されない。
 よって、当会は、憲法改正の発議要件を緩和する憲法第96条改正の提案に反対することを表明するものである。

2013(平成25)年7月3日
島根県弁護士会
会長 大野敏之