2014(平成26)年1月29日、厚生労働省労働政策審議会は、「労働者派遣制度の改正について」との建議をとりまとめた。この建議を受けて、政府は、本年の通常国会において、労働者派遣法を改正する予定とされている。
 上記建議は、2013(平成25)年8月20日に発表された厚生労働省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書(以下「報告書」という。)の考え方を基本的に採用しており、労働者派遣法の根本原則である常用代替防止の考え方を見直し、派遣元で無期雇用されている派遣労働者については、常用代替防止の対象から外すこと、及び、派遣元で有期雇用されている派遣労働者については、1.個人レベルで派遣期間を制限することとして、政令指定26業務を含めて、派遣労働者個人単位で上限期間(3年)を設定すること、2.派遣期間の上限に達した派遣労働者の雇用安定措置として、派遣元が、派遣先への直接雇用の申入れ、新たな派遣就業先の提供、派遣元での無期雇用化等のいずれかの措置を講じなければならないこと、3.派遣先において、有期雇用派遣労働者の交代によって派遣の継続的受け入れが上限を超す場合には、過半数組合か過半数代表者の意見聴取を義務付けることとしている。
 しかしながら、このような建議に基づいて労働者派遣法が改正されることになれば、以下のように、無期か有期かにかかわらず、全ての労働者派遣において常用代替防止の理念は事実上放棄され、企業が一般的・恒常的業務について派遣労働者を永続的に利用できることになり、労働者全体の雇用の安定と労働条件の維持、向上が損なわれる事態となる。
 すなわち、まず無期雇用の派遣労働者については、派遣元で無期雇用されているからといって、必ずしも派遣労働者の雇用が安定しているわけでもなく、また労働条件が優良であるわけでもない。実効性ある均等待遇の確保策の導入もないままに、無期雇用派遣労働者について派遣可能期間を撤廃すれば、直接雇用労働者が優良な労働条件を確保されない派遣労働者に置き換えられ、常用代替を促進することになりかねない。
 次に、有期雇用の派遣労働者についても、上記1の点は、結局のところ、派遣先・派遣元事業者が3年経過するごとに派遣労働者を入れ替えて派遣労働を継続して使うことが可能となり、やはり常用代替防止の理念は果たされないことになり、派遣労働の固定化につながる。また、上記2の雇用安定措置については、派遣先への直接雇用申入れも、派遣元での無期雇用化も、私法的な効力を付与しない限り、実効性を欠き、多くの派遣労働者が失職することを防止できない。上記3の派遣先での意見聴取も、労働組合等が反対しても使用者は再度説明さえすれば導入できる制度となっており、歯止めになり得ない上、36協定締結や就業規則改定における労働者過半数代表の意見聴取制度が多くの事業場で形骸化してしまっている我が国の現実からすれば、派遣労働者の受入上限をいくらでも延長されるおそれが強く、常用代替防止を図る実効性はない。
 以上、本年の通常国会において予定されている労働者派遣法改正の基盤となる上記建議は、直接雇用の原則から導かれる常用代替の防止の理念を軽視するものであり、非常に問題だといわざるを得ない。
 しかも、労働政策審議会の議論においては、均等待遇の確保策の導入も議論されたが、上記建議においてはその導入も見送られている。
 日本弁護士連合会は、2013(平成25)年11月21日付け「『今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書』に対する意見書」において、報告書に示される方向性での労働者派遣法改正に反対するとともに、2010(平成22)年2月19日付け「労働者派遣法の今国会での抜本改正を求める意見書」の方向性を提言することを改めて確認した。しかしながら、上記建議の制度改革の方向は、日本弁護士連合会が上記意見書で述べた常用代替防止の理念を維持すべき等の意見に反するものといわざるを得ない。
 日本弁護士連合会は、上記建議に従った方向性での労働者派遣法改正に反対するとともに、派遣労働者の雇用安定を確保し、常用代替防止を維持するための労働者派遣法改正を行うよう求めているところであるが、島根県弁護士会としても今般の労働者派遣法改正に対する立場は日本弁護士連合会と同一であり、同様に上記建議に従った方向性での労働者派遣法改正に反対するとともに、派遣労働者の雇用安定を確保し、常用代替防止を維持するための労働者派遣法改正を行うよう求めるものである。

2014(平成26)年3月4日
島根県弁護士会     
会長 大野 敏之