平成26年8月29日午前、東京拘置所及び仙台拘置支所において、それぞれ1名の死刑確定者に対する死刑の執行が行われた。谷垣禎一前法務大臣は、平成24年12月に就任して以降6回(合計11名)もの死刑執行を命じたことになる。

 当会は、死刑制度の存廃を含む国民的議論を開始し、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止するよう、再三政府に対して要請してきた。本年6月26日に大阪拘置所においてなされた1名に対する死刑執行の際にも、本年7月1日付けで「死刑執行に抗議する会長声明」を発したところである。

 死刑は、かけがえのない生命を奪い、人間の存在を完全に否定するという非人道的な刑罰であり、また、罪を犯した人の更生と社会復帰の可能性を完全に奪うという取り返しのつかない刑罰である。いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件という4つの死刑確定事件における再審無罪、いわゆる足利事件、布川事件における無期懲役刑確定事件の再審無罪判決が示すとおり、死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。

 日本弁護士連合会においては、平成25年2月12日、谷垣前法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し、死刑制度に関する世界の情勢について調査の上、調査結果と議論に基づき、今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと、そのような議論が尽くされるまでの間、すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。

 本年3月27日には、静岡地方裁判所が袴田巖氏の第二次再審請求事件について、再審を開始し、死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。この袴田事件の再審開始決定がなされたことは、死刑確定事件であっても冤罪の疑いの強い事件が現に存在することを証明するものであり、刑事司法制度の改善の必要性だけでなく、冤罪を完全に防ぐことが出来ない以上、生命を奪う死刑制度には問題があることを明らかにした。

 死刑の廃止は国際的な趨勢であり、世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っている。死刑を存置している国は58か国であるが、平成25年に実際に死刑を執行した国は、日本を含め22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は、日本・韓国・アメリカの3か国のみであるが、韓国は16年以上にわたって死刑の執行を停止、アメリカの18州は死刑を廃止しており、死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。こうした状況を受け、国連人権(自由権)規約委員会は、本年7月24日、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮することや、執行の事前告知、死刑確定者への処遇等をはじめとする制度の改善等を勧告している。

 このように死刑廃止が国際的潮流である中で、死刑制度について死刑廃止を含めた抜本的な議論をすることなく、また、袴田事件の再審開始決定により死刑制度に対する社会的関心が集まっている今日において、当会による再三に亘る死刑執行の停止の要請を一切無視するかの如くなされた今回の死刑執行は極めて遺憾である。

 当会は、今回の死刑執行に強く抗議するとともに、改めて政府に対し、死刑制度の存廃を含む国民的議論を開始し、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。 

2014(平成26)年10月1日
島根県弁護士会
会長 射場 か よ 子