1.  中央最低賃金審議会は,本年7月頃,厚生労働大臣に対し,2018年度地域別最低賃金改定の目安についての答申を行う予定である。
     昨年の同審議会の答申においては,島根県はランクDに位置づけられ,引上げ額の目安は22円とされた。それを踏まえ,昨年,島根地方最低賃金審議会は,島根県労働局長に対し,上記の中央最低賃金審議会の引上げ額の目安を踏まえ,島根県における1時間あたりの最低賃金を718円から740円に改定することが適当であるという旨の答申を行った。この答申を踏まえ,島根県においては最低賃金を740円に引上げる改定がなされ,平成29年10月1日に効力を生じ,現在に至っている。

  2.  最低賃金制度は,「賃金の低廉な労働者について,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もって,労働者の生活の安定,労働力の質的向上」等を目的としているものである(最低賃金法第1条)。この制度は,「すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)」としての位置づけられるべきものであり,最低賃金を基準にしてフルタイムで働いた場合に,労働者が人間らしい生活を営むことができる程度の賃金を得られることができるよう制度を運用することが求められる。
     しかしながら,昨年の島根県における最低賃金の改定結果をみても,改定後の最低賃金である1時間当たり740円を基準に,1日8時間,月22日働いた場合の賃金を計算しても,1か月13万0240円にしかならず,労働者が日常生活を営むに足りるだけの水準が確保されているとはいいがたい。

  3.  また,島根県の最低賃金の金額は,全国的な水準に照らして低い状態が続いている。すなわち,昨年の東京都の最低賃金は958円に引上げられたところ(前年比26円の増額),最低賃金の最も高い東京都と比較してみても,島根県の昨年の改定後の最低賃金額はこれを218円も下回っていることになる。さらに,昨年の最低賃金の全国加重平均額は848円になるが,昨年の改定後の島根県における最低賃金額はこれを108円も下回っている。
     島根県においては,若年労働者が都市部へ流出するという傾向が続いているが,上記のような格差がこのような現象の一因をなしているものと考えられる。島根県のみならず,全国的なレベルで見ても,地方の活性化をはかるためにもこの格差を解消することが重要である。

  4.  他にも,最低賃金の引上げにより,労働者の離職率を下げ,新規採用・訓練のコストを減らし,生産性の向上につながること,さらに,賃金が消費に回り地域的及び全国的な経済成長につながることなどのメリットも見込まれるのであり,この点からも最低賃金の大幅な引上げが求められる。

  5.  以上のことから,島根地方最低賃金審議会は,島根県の地域別最低賃金の大幅な引上げを図り,地域経済の健全な発展を促すとともに,労働者の健康で文化的な生活を確保すべきである。

2018(平成30)年6月29日
島根県弁護士会
会長  丑久保 和彦