2018(平成30)年12月27日,大阪拘置所において2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。今回の執行は,同年7月6日には7名,同月26日には6名に対してなされた死刑執行に続くものであり,1年間で合計15名という大量の執行である。山下貴司法務大臣による初めての死刑執行であり,第2次安倍内閣以降,死刑が執行されたのは15回目で,合わせて36名になる。
 今回,死刑執行された死刑確定者の中には再審請求中である者が含まれている。これまでは,再審請求中は死刑執行が回避される傾向にあったが,今回の執行は,2017(平成29)年7月13日,同年12月19日,2018(平成30)年7月6日及び同月26日に執行された再審請求中の死刑執行に続くものであり,再審請求中であっても裁判所の判断を待たずに死刑執行がなされる傾向となっている。
 死刑は,最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり,ひとたび執行されてしまえば,誤判に基づき死刑判決がなされた場合には,取り返しがつかない。
 いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件及び島田事件という4つの死刑確定事件に対する再審無罪判決,また,いわゆる足利事件及び布川事件という無期懲役刑確定事件に対する再審無罪判決が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
 更に,2014(平成26)年3月27日には,静岡地方裁判所が袴田巖氏の第2次再審請求事件について,再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。再審開始決定は,2018(平成30)年6月11日,東京高等裁判所で取り消されたものの,特別抗告審にて係属中である。いわゆる袴田事件は,裁判所によって判断が分かれる事態となっており,死刑確定事件であってもえん罪の疑いの強い事件が,現在でも,なお,存在することを一層明らかにしている。
 死刑の廃止は国際的な趨勢であり,世界で死刑を廃止又は停止している国は142か国に上っている。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国の中で死刑制度を存置している国は,日本・韓国・米国の3か国のみであるが,韓国は事実上の死刑廃止国であり,米国の多くの州は死刑を廃止ないし死刑の執行停止が宣言されており,死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。こうした状況を受け,国際人権(自由権)規約委員会は,2014(平成26)年7月24日,日本政府に対し,死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
 そして,2016(平成28)年12月19日,国連総会において,全ての死刑存置国に対し,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が国連加盟国193か国のうち117か国の賛成多数で採択されている。
 こうした国際的な趨勢及び国連関係機関から死刑執行の停止・死刑制度の廃止に向けた措置を検討するように勧告を受けながらも,死刑制度を存置し,かつ死刑の執行を繰り返す日本政府の姿勢は際立っている。
 2014(平成26)年11月に実施された死刑制度に関する政府の世論調査の結果,「死刑もやむを得ない」との回答者が80.3%を占めたものの,そのうち40.5%は「将来的には,死刑を廃止してもよい」としており,将来的にも死刑を存置すべきとする意見は,全体の約46%であった。この結果からも死刑廃止について議論する必要性があると言える。

日本弁護士連合会は,2016(平成28)年10月7日,福井市で開催された第59回人権擁護大会において,「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,その中で,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020(平成32)年までに死刑制度の廃止を目指すべきであることを宣言した。
 このような状況における死刑執行は極めて遺憾であり,当会としても到底容認することができない。
 また,再審請求中の死刑執行は,司法府の判断より行政府の判断を優先させるものであり,かつ,確定判決の事実誤認を救済する非常救済手続きである再審手続きを軽視するものであって極めて問題である。
 当会は,政府に対し,これまでの死刑執行に対しても強く抗議し,死刑執行の停止を求めてきたところであるが,今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の廃止に向けた抜本的な検討及び見直しに関する,真に,広く国民に開かれた全社会的議論の開始を求めるとともに,議論が尽くされるまでの間,死刑執行を停止するよう,強く求めるものである。

                 2019(平成31)年1月29日
                           島根県弁護士会
                     会長 丑久保  和彦