1 従来,我が国では,戦後直後から2011年(平成23年)10月まで,司法修習生に対し,給与が支給されてきた。これは,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであり,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を公費をもって養成すべきであるとの考えに基づくものである。また,司法修習生には,修習専念義務が課せられ,他の公務員と同様に兼業を禁止されているため,修習専念義務を果たすためには,それに見合う経済的基盤が必要不可欠といえる。
2 しかし,国は,財政的事情を理由に,2011年(平成23年)11月以降,修習期間中に費用が必要な司法修習生に対しては,修習資金を貸与する制度を設けた。当該制度の下においても,司法修習生には修習専念義務が課せらせており,無給となった新第65期以降の司法修習生は,その約7割が生活費や修習費用等を貸与金で賄い,修習期間中に,一人当たり平均約300万円もの負債を負う結果となった。また,貸与を受けなかった司法修習生についても,自己の蓄えや親族等からの援助によって賄わなければならなかった。
3 当会は,2016年(平成28年)1月20日,「司法修習生に対する給付型の経済的支援を求める会長声明」を出し,国会に対して,司法修習手当の創設を内容とする裁判所法改正を求めてきた。
 2017年(平成29年)4月には,裁判所法改正により,司法修習生に対し,修習給付金を支給する制度が創設された。第71期司法修習生から修習給付金(基本給付金月額13万5000円・住宅給付金月額3万5000円)の支給が開始されているが,当該支給によっても,司法修習生が修習に専念できる経済的基盤としては十分ではない。
 そして,何より問題であるのは,上記裁判所法改正は,貸与制の下,無給で司法修習を修了した新第65期から第70期の司法修習生(以下「谷間世代」といいます。)に対し,何ら対策を講じていないことである。既に谷間世代は,貸与金の返済をはじめており,谷間世代に生じている不公平・不平等な経済的負担を是正する措置は何ら講じられていない。
 実際,谷間世代からは,貸与金の返済による経済的負担が大きいことや,谷間世代のみに生じた不公平・不平等な経済的負担が,司法の担い手としての法曹の使命を果たすことへの妨げになる懸念があるなどの声が寄せられている。
4 谷間世代に対する不公平・不平等な経済的負担を是正することは,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための社会的インフラであり,国にその責務がある。
 したがって,当会は,国に対し,谷間世代に対する不公平・不平等な経済的負担を是正するための措置を講じることを求めるものである。

                 2019(平成31)年2月25日
                           島根県弁護士会
                     会長 丑久保  和彦