少年法等の改正案が平成17年3月1日付で今国会に提出された。

 本改正案は、一定の重大な事件について国費により付添人を付する制度を導入した点では、その対象が限定的で不十分ではあるが評価できる。しかし、低年齢少年に対する厳罰化、触法少年等に対する福祉的対応の後退、警察官による強制調査権限の法定、保護観察制度の変質の危険など、重大な問題がある。

 改正案については、平成17年3月17日付で日本弁護士連合会が詳細な意見書を提出しているところであるが、当会としても、特に以下の点につき、反対の意思を表明する。

  1.  14歳未満の少年の少年院送致
     本改正案は、少年院の送致年齢の下限(現行少年院法では14歳)を撤廃し、法的には、小学生はおろか幼稚園児でさえ少年院に入れることができることにしている。
     法務省は、凶悪な事件を起こしたり、悪質な非行を繰り返すなど、深刻な問題を抱える少年に対しては、早期に矯正教育を行うことが適当な場合もある、などと説明している。
      しかし、統計上、14歳未満の少年の凶悪化は認められず、また、厳罰(少年院送致)による非行抑止効果についての具体的な検討もなされていない。
     少年院は、閉鎖的施設において集団的規律訓練を中心とする矯正教育を行う矯正施設であるのに対し、14歳未満の少年が送致される児童自立支援施設は、開放的施設における家庭的環境の下で、「育てなおし」を行う福祉施設である。14歳未満の少年については集団的規律訓練はふさわしくなく、家庭的環境の下での「育てなおし」が必要であるというのが現行法の考え方である。そして、低年齢で重大事件を起こした少年ほど、家庭環境に深刻な問題がある可能性が高いのであり、開放的・家庭的環境の下での「育てなおし」を必要としているのである。
     本改正案は、低年齢の非行少年の実態についての統計的調査・検討もなされないまま、安易に閉鎖処遇・厳罰化を図るものであり、容認できない。
  2.   警察官の調査権限、特に強制調査権限
     本改正案は、触法少年等に対する警察官の調査権限を認め、新たに強制調査権限も認めている。これによれば、警察官は、少年、保護者などを呼び出し、質問することができるし、押収、捜索などをすることもできる。
     しかし、触法少年や14歳未満のぐ犯少年については、福祉の対象として児童相談所が優先的に取扱うのが現行法の原則である。
      また、少年に対する聴取(質問)は、未熟さ、被暗示性、迎合性など少年の心理的特性を十分に理解して慎重に行う必要があり、とりわけ低年齢の少年については、その必要は特に大きい。弁護士の援助を受ける権利の制度化、聴取方法や配慮すべき事項についてのガイドライン策定、聴取全過程のビデオ録画やテープ録音等可視化の制度化などが前提であり、これらを全く欠いたまま、児童の福祉・心理について専門性を有しない警察官の質問権だけを認めることは、密室における警察官の誘導等による虚偽の自白を生じさせ、かえって事実解明を阻害することになるばかりか、少年に対する教育的・福祉的対応を後退させる。
     現在、必要とされているのは、触法少年等に適切な対応ができるように、児童相談所のスタッフの増員や専門性の強化、児童自立支援施設の拡充などの教育的・福祉的対応の環境整備を行うことであり、警察権限の拡大ではない。 
  3.   保護観察中の遵守事項違反を理由として少年院等へ送致すること
     本改正案は、保護観察中の少年について遵守事項違反があった場合に、遵守事項違反を理由として、家庭裁判所が少年院送致等の処分をすることができるとする。
      関係委員の説明では、保護司による面接が困難であるなど、保護観察に対する動機付けの乏しい少年に自覚をさせる必要があるということである。
     しかし、現行少年法は、少年に対する人権保障と適正手続の観点から、「非行少年」として審判により保護処分ができる対象を、犯罪少年、触法少年、ぐ犯少年の三種類に限定している。ぐ犯事由にも該当しない、遵守事項違反のみを理由に少年院等に送致できるとすることは、上記少年法の趣旨に反する上、既に審判によって保護観察処分とされたもとの非行行為を考慮に入れて判断されると考えざるを得ず、少年を憲法上許されない「二重の危険」にさらすおそれもある。
     保護観察は、保護観察官や保護司が少年との信頼関係を形成しつつ、ケースワークを行いながら、少年の改善更生を図るものであり、遵守事項の設定もその一つの手段である。
     保護観察の実効性確保のためには、まず保護観察官の増員、適切な保護司の確保等を図るべきであり、少年院送致という威嚇によって遵守事項を守らせるという改正案では、保護観察官、保護司と少年との信頼関係の確保を困難にし、保護観察制度の趣旨にも反するものである。

  以上の各点は、少年司法制度の根本理念に反し、少年に対する福祉的対応を後退させ、保護観察制度の変質をもたらすものと言わざるを得ず、強く反対するものである。

2005(平成17)年5月30日
島根県弁護士会
会長  吾郷 計宜