平成18年3月7日、厚生労働省は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律」案(以下、「法律案」という。)を今国会に提出し、法律案はまもなく参議院での審議に入る見込みである。

 男女雇用機会均等法の成立から20年を経過した今日においても、男女間の格差は依然大きく、パート・派遣等非正規雇用の増加やコース別雇用管理などにより、格差の拡大傾向すら見られる。しかるに、法律案は、差別是正のための実効性ある法整備としては極めて不十分である。

 今回の法改定に関しては、日本弁護士連合会が詳細な意見書及び会長声明を出しているところであるが、当会としても、特に重要な3点について意見を述べる。

  1. 法律の目的・理念に「仕事と生活との調和」を明記すべきである。
      日本の現状は、未だ、男性は家庭責任を担えないほどの長時間労働を行い、家庭責任の多くは女性が負担するというものである。雇用における男女の平等とは、男性も女性も、「仕事と生活との調和」の上で、平等な取扱いを受けるというものであり、仕事と生活とを調和させながら働き続けることができる条件整備が不可欠である。
     よって、法律の目的・理念に「仕事と生活との調和」を明記すべきである。
  2. 「賃金」についても、差別的取扱いを禁止する対象として明記すべきである。
     法律案は、差別的取扱いを禁止する対象として、配置、降格等を新たに追加しているが、「賃金」は含まれていない。しかし、差別が最も如実に現われるのは賃金である。正規雇用のみの比較でも女性の賃金は男性の7割未満、非正規雇用を加えると5割にも満たないのであり、日本における賃金格差は国際的にも突出して大きい上、是正速度はあまりに遅い。今回、これを法律で禁止しないことは、差別の大部分を放置するに等しい。
     よって、「賃金」についても、差別的取扱い禁止の対象に加えるべきである。
  3. 間接差別の一般的定義とその禁止を法律に明記すべきである。
     法律案は、いわゆる間接差別について規定しているが、その定義は不明確であり、しかも、禁止される対象を、「厚生労働省令で定めるもの」に限定している。そして、厚生労働省の説明によれば、省令で定めるものとして予定されているのは、
    1. 募集・採用における身長・体重・体力要件、
    2. コース別雇用管理制度における総合職の募集・採用における全国転勤要件、
    3. 昇進における転勤経験要件の3つのみである。
       しかし、間接差別とは、経済社会の変化により新たな形態の差別が現れる中で、効果的に男女差別の是正を進めていくための概念として、国際的に形成、確立されてきたものである。法律案のようにその対象を省令で限定する方法は間接差別の概念になじまない上、「対象外」の差別が適法として許容されるおそれすらある。しかも、法律案及び予定されている省令によると、福利厚生や手当についての「世帯主」要件や、パート・契約社員と正社員の賃金格差など、現在、既に生じている問題の多くは救済されない。
       よって、間接差別の対象を省令で限定列挙することには反対である。法律には間接差別の一般的定義とその禁止を明記すべきであり、その上で、間接差別となりうるものを指針により具体的に例示する(例示列挙とする)べきである。

2006(平成18)年4月14日
島根県弁護士会
会長 吾郷 計宜