今国会において、与党は、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」の成立を期しており、目下、国会において審議中である。そして、その法案は、「共謀罪」の新設を含んでいる。

 当会は、この「共謀罪」は、基本的人権を侵害し、捜査権の濫用を助長するものとして、既に、2005(平成17)年8月5日、その問題点を指摘した上で、法案に反対する旨の会長声明を発しているところである。その後、与党は、世論の反対により、法案に一部修正を加えたが、なお、法案の危険性は払拭されたとは言い難い。

 第1に、適用対象の団体は、「組織的な犯罪集団」と修正されたが、その定義は、必ずしも明らかではない。市民団体や労働組合などが「組織的な犯罪集団」と解釈される余地が十分にある。

 第2に、処罰対象とされるのは、「犯罪の実行に必要な準備その他の行為が行われた」際の共謀と修正されたが、これも、準備行為とは何か、その他の行為とは何かについて拡大解釈される懸念がある。

 そもそも、一般の600以上にも及ぶ犯罪について、犯罪の実行行為はおろか、予備行為も行っていない段階で「共謀」それ自体を処罰の対象とすることは、「意思だけでは処罰しない」という現行刑法の基本原則に反するものであり許されない。このことは、従前から指摘してきたところである。

 更に、「国境を越えた組織犯罪を取締まるための国際的な組織犯罪の防止」が立法本来の目的であったところ、本法案には、そのような限定はなく、国際的な活動をしない国内の一般団体の共謀にも適用されることになり、適用範囲は無限定になる恐れがある。

 以上のような問題点に加え、「共謀罪」は、市民の会話や電話、メール等を捜査対象とすることにならざるを得ず、その結果、国民のプライバシーが侵害されると共に、共謀の立証のために自白強要の捜査が行われる危険性、市民間に密告などの風潮が強まりかねない危険性、監視社会になる危険性も指摘できるところである。

 よって、当会は、「共謀罪」の新設に改めて断固反対するものである。

2006(平成18)年5月17日
島根県弁護士会
会長 吾郷 計宜