現在,サラ金・商工ローンといった貸金業者は,貸金業規制法43条のみなし弁済規定を盾に,債務者から年率29.2パーセント程度の金利を徴求している。

  しかし,この29.2パーセントという利率は,返済そのものが困難な,およそ非現実的な高金利である。このことは,過去5年間の自己破産件数は約100万件であり,現在においても,約2000万人とも言われるサラ金・商工ローン利用者のうち200万人もが返済困難な多重債務状態にあると言われていることからも明らかである。すなわち,多重債務問題の原因は,年率29.2パーセントという高金利にあるのである。

 そして,多重債務の問題は,家庭崩壊,毎年約8000名とも言われる借金苦による自殺,借金苦による犯罪の誘発,公租公課の不払いなど,深刻な社会問題を引き起こしている。

  そもそも利息制限法の所定の利率を超える利息は,無効な利息である。無効な利息であるということは,貸金業者が利息制限法の所定の利息を超える利息を,仮に訴訟で請求したとしても認められないということを意味している。これまで貸金業者は,貸金業規制法43条のみなし弁済規定を根拠に債務者から無効な利息を徴求していたが,最高裁判所は,近時,貸金業規制法43条の適用を否定して利息制限法による債務者救済を図る判決を相継いで示し,利息制限法の所定の利息を超える利息は無効であるという大原則を復活させている。

  今回の法改正は,最高裁判所が貸金業規制法43条の適用を否定する判決を相継いで示すなかで,上記のような深刻な多重債務問題を解決するため,貸金業における上限金利を引下げることを目的としたものであったはずであり,このことは,自民党及び公明党の「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」や,金融庁「貸金業制度等に関する懇談会」で確認されている。そして,高金利引き下げを求める請願署名が300万人を超えていること,島根県を含む39都道府県,島根県の8自治体議会を含む880を超える市町村議会が,高金利引き下げの意見書を採択していることなど,国民も明らかに貸金業における上限金利の引き下げを求めている。

 しかしながら,金融庁と自民党が本年9月15日に合意した貸金業規制法の改正案は,かかる金利引下げの動きに歯止めをかけるものであって,極めて不当である。

  改正案によると,改正法の施行までを公布から1年以内,施行から上限金利の引き下げまでの経過期間を2年半以内とし,その上さらに2年間,少額短期の貸し付けに,年率25.5パーセントの特例金利を認めるとしている(この特例金利は,個人向けの場合は30万円以下で返済期間1年以内の貸し付け,事業者向けの場合は500万円以下で返済期間3か月以内の貸し付けに適用するとされている)。すなわち,改正案では,最長5年半もの長期間にわたり,依然としてグレーゾーン金利が存在することになるのである。

  一方で,改正案は,顧客の年収の3分の1を上回る貸し付けは原則禁止という総量規制の導入や,貸金業者が顧客の借入総額が100万円を超える新規融資をする際,顧客本人の年収の調査を貸金業者に義務づけるなどの規制を盛り込んでいる。しかしながら,総量規制の導入のためには,個人の借入履歴を集約する信用情報機関の整備が不可欠であるところ,改正法が施行されるまでに,信用情報を集約する仕組みができるかどうかは不明であり,総量規制が厳格に運用されるかどうかは未知数である。

 したがって,総量規制の導入だけでは,直ちに多重債務問題が解決するとはいえない。多重債務問題の原因が高金利にある以上,問題の解決のためには,特例なき金利引き下げを行うことが最も重要かつ不可欠なのである。

  多重債務者の生活は悲惨である。昨今のテレビ・新聞などの報道では,多重債務に苦しんだ挙句,健康保険料を納められなくなって持病の高血圧の治療ができず,ついにクモ膜下出血に倒れた男性の話,利息制限法上は借金を完済しているにも関わらず17年間も返済を強いられ,過払い金が970万円にも達した男性の話,借金苦の末ホームレスに追い込まれたが,実は借金は完済しており過払いであることが判明した話,過払い状態になっていたのに借金があると思い込んで自殺した女性の話など,枚挙に暇がない。このような悲惨な生活を招いた原因は,まさに,不当な高金利なのであり,かかる高金利を一定期間といえども存続させることは,幸福追求権を規定した憲法13条,生存権を規定した憲法25条1項の精神に反するものとも考えられる。

  そこで当会は,政府及び国会に対し,以下のことを強く求める。

  1.  貸金業規制法43条みなし弁済規定を改正法施行時に即時廃止すること。
  2. いかなる特例金利も認めてはならないこと。
  3. 出資法上限金利をすみやかに利息制限法の制限利率15〜20%に引き下げること。
  4. 緊急の資金需要者に対しては,7月6日に自民党,公明党が共同で発表した「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」で示された緊急 融資制度等のセイフティネットの拡充で対応すること。
  5. 行政の相談窓口の設置など,多重債務者救済のための有効かつ具体的な方策を打ち出すこと。

2006(平成18)年9月22日
島根県弁護士会
会長 吾郷 計宜