2006(平成18)年11月16日、教育基本法改正案が衆議院本会議において与党単独(野党欠席)で可決され、改正案は参議院特別委員会の議に付されることとなった。

 既に当会は本年5月23日付で、改正案に反対の立場を表明したが、与党が衆議院で強行採決を実施し、さらに参議院でも同様の構えであるという切迫した状況であることから、以下の通り問題点を示し、あらためて反対の意思を表明する。

  1. 適正な手続きをとらず、説明責任を果たしていない
     教育基本法は、教育において日本国憲法の理念を実現するために教育の目的など重要な基本理念を前文等で明らかにし制定された準憲法的な法律である。そのため、改正については、憲法改正の場合に匹敵する徹底した調査・研究と国民的議論が必要である。
     しかし、この度の改正案の作成経緯は殆ど非公開であり、衆議院でも十分な審議が尽くされたとは到底言えない。また、いじめ、必修科目の履修漏れなど教育をめぐる深刻な問題が起きているが、これは教育基本法が元凶なのか、教育基本法の改正(例えば「道徳」「郷土や国を愛する態度」を目標・評価項目とすることなど)によって果たして解決が可能であるのか、どのように解決していこうとしているのか、政府から国民には全く説明されていない。それどころか政府主催のタウンミーティングにおける「やらせ質問」問題まで発覚している。このような秘密主義・世論操作は主権者たる国民に対する背信行為である。
     このまま改正案を成立させてしまうことは許されないというべきである。
     
  2. 内容の重大な問題
     問題点は多数あるが、特に重大な点は、現行法10条「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対して直接に責任を負」うとの条項を「教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われる」(16条)としている点である。これは法律によれば国家が教育内容に介入することができることを意味する。明治憲法下の国家による教育の介入支配がもたらした様々な弊害を想起すべきである。
     また、法律をもって教育内容に介入できるとすれば、自由な精神と自律的判断能力を涵養するために、本来中立であるべき教育の場で、多数派により、憲法が保障する少数者の権利を侵害するような教育が行われるおそれがある。
     
     以上により、当会は、現在審議中の教育基本法改正に反対する。

2006(平成18)年11月20日
島根県弁護士会
会長 吾郷 計宜