1. 現在、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正法案の立案作業が進められている。しかしながら、以下に述べるとおり、成年年齢の引下げにより18歳、19歳の若年者の消費者被害が拡大するおそれが高いことから、当会は、現時点において、民法の成年年齢を引き下げることに反対する。

  2. 民法の成年年齢を引下げた場合の最も大きな影響は、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権を失うことにあらわれる。
     すなわち、現行民法においては、未成年者は、親権者の同意なく単独で行った法律行為を、未成年者であることのみを理由として取り消すことができる(民法第5条第2項)。この未成年者取消権は、社会経験に乏しく判断能力も未熟な未成年者を、消費者トラブルから保護するための手段として機能するとともに、未成年者に違法又は不当な契約の締結を勧誘しようとする悪質な事業者に対する強い抑止力としても機能している。20歳未満の未成年者と20歳以上の成年者との間では、消費者生活センター等に寄せられる相談の件数や内容が大きく異なることや、20歳の誕生日を待って取引の勧誘に及ぶ悪質な事業者がみられることは、これまでにもたびたび指摘されてきたところである。
     このような状況下で、18歳、19歳の若年者が未成年者取消権を失うことになれば、これらの者に消費者被害が拡大するおそれは極めて高いといわなければならない。  

  3. 若年者への消費者被害の拡大を防止するためには、若年者に対する被害救済施策の拡充や、消費者教育の一層の充実が不可欠である。  
     この点、法制審議会が平成21年10月28日に採択した「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」は、成年年齢を引き下げても18歳、19歳の者の消費者被害が拡大しないよう、消費者保護施策の更なる充実を図る必要があるとしている。また、内閣府消費者委員会による平成29年1月10日付け「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書」も、成年年齢の引下げによる若年者への消費者被害の拡大を懸念するとともに、消費者教育の充実や各種制度整備の必要性を指摘している。さらに、内閣府消費者委員会の平成29年8月8日付け答申書(府消委第196号)は、その付言において、「合理的な判断をすることができない事情を利用して契約をさせるいわゆる『つけ込み型』勧誘の類型につき、特に、高齢者・若年成人・障害者等の知識・経験・判断力の不足を不当に利用し過大な不利益をもたらす契約の勧誘が行われた場合における消費者の取消権」を、早急に検討し明らかにすべき喫緊の課題としている。このように、若年者への消費者被害の拡大を防止するための施策は、その必要性がくり返し指摘されているにもかかわらず、現時点において何ら整備されていない。
     その一方で、消費者教育については、平成24年12月に「消費者教育の推進に関する法律」が施行され、国や地方公共団体が消費者教育の推進に関する諸施策を策定及び実施する責務を有することが明記されたが、施行から5年を経た現在においても、同法に基づく消費者教育が国民に十分行き渡っているとはいい難い状況である。

  4. 以上に指摘したとおり、成年年齢の引下げによって生じうる消費者被害の拡大のおそれを払拭しうる施策は、現時点では整っていないというほかなく、成年年齢の引下げに関する社会的な議論も十分になされているとはいえない。このような状況を踏まえ、当会は、現時点において、民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることに反対する。

2018(平成30)年1月9日
島根県弁護士会
会長  岸田 和俊