地方法科大学院に対する支援を求める会長声明
2012(平成24)年10月19日
法科大学院制度は,創設から8年半が経過し,司法試験合格率の低迷,法学既修者と法学未修者の格差の拡大,入学志願者の激減等,様々な課題に直面している。これまでに撤退を決定した法科大学院は,他校との統合を予定しているものも含め,5校に達している。
地方法科大学院の中には,既に撤退を決定した法科大学院と同様に,司法試験合格率の伸び悩みと定員充足率の低下という問題を抱えているものが多く,その存続が危ぶまれる状況にある。
山陰唯一の法曹養成機関である島根大学大学院法務研究科(山陰法科大学院)もその例に漏れない。文部科学省は,本年の司法試験の結果を受け,同学に対する2013(平成25)年度の運営費交付金を削減する方針を決定した。これにより,山陰法科大学院は,これまで以上に厳しい状況に置かれることとなった。
しかし,法の支配をあまねく実現するためには,各地の様々な階層から法曹を生み出すことが重要であり,そのため,法科大学院を全国に適正配置し,地方在住者がその地域で教育を受けて法曹になる機会を実質的に保障することは,司法制度改革の目的に直結する重要な理念である。そして,地方法科大学院の存在が地元志望者の経済的負担を大きく軽減させるだけでなく,司法過疎の解消,地域司法の充実・発展に貢献し,さらには,地方自治・地方分権を支える人材を育成するという観点からも重要な役割を担っていること等を併せて考えれば,法科大学院の統廃合は,地域適正配置の理念を踏まえつつ実施される必要がある。
山陰法科大学院は,この理念を具体化するために教育体制の確立を図り,認証評価では適合の評価を受けている。2010(平成22)年からは,FD会議(FDとは,「教育内容や教育方法の改善に向けた組織的取り組み」を意味するFaculty Developmentの頭文字)及び指導教員会議等において,個々の院生のカルテ(学修状況に関するデータ)に基づき院生ひとりひとりの到達段階や指導の在り方等について共同討議を重ね,それまで以上に徹底した個別指導を行っている(同年の入学者は,2013(平成25)年の司法試験を受験する予定であり,その成果が期待される)。また,他の地方法科大学院との共同FD会議,当会会員及び鳥取県弁護士会会員との法曹養成教育研究会等を継続的に開催し,教育の質の改善努力を続けている。当会としても,鳥取県弁護士会とともに,多数の若手弁護士を法務アカデミック・アドバイザーとして推薦するなど,院生及び修了生の学修を支援してきたところである。
これまで,山陰法科大学院は,社会人経験者,他学部出身者,家庭や経済的事情等から地域を離れることのできない者等の多様な人材を受け入れてきた。こうした入学者の特性を考慮し,法律学の学び方や法学全体の基礎知識を体系的に身に着けることができるよう,入学前に法学入門講座を開催するなど,法学未修者に手厚い教育を行っている。また,地域と手を携えた法曹養成教育,具体的には,山陰の地域社会において生起する様々な法的問題を院生自ら掘り起こし法的解決を探究する授業科目や,山陰両県各地における出張法律相談会等を通じて,地域に精通し,地域で活躍する法曹の養成に取り組んできた。現に,同大学院を修了して弁護士登録した9名のうち6名が,山陰両県の弁護士会の会員として活動している。
このように,山陰法科大学院は,多様な人材を受け入れ,地域社会に根ざした法曹を生み出し,全国あまねく法の支配を実現するという司法制度改革の基本理念を具体化してきた。
当会は,山陰法科大学院をはじめとする地方法科大学院の果たすべき役割に鑑み,政府及び日本弁護士連合会に対し,下記のことを強く求める。
記
- 1 政府は,地域適正配置の理念に照らし存続が必要とされる地方法科大学院について,国立大学法人運営費交付金又は私立大学等経常費補助金を減額しないこと
- 2 法曹養成制度関係閣僚会議及び法曹養成制度検討会議は,法曹養成制度の在り方について検討するに当たり,地域適正配置の理念を重視すること
- 3 日本弁護士連合会は,地域適正配置の観点から必要があると認められる場合には,地方法科大学院に対し,以下のような支援を行うこと
- ア 地方法科大学院の特徴ある授業科目及び課外活動等の魅力並びに地域や弁護士会における修了生の活動状況を紹介するなどの広報活動を行うこと
- イ 実務家教員の人件費に対する補助金を交付すること
- ウ 研究者教員の確保を支援すること
- エ 日本弁護士連合会による寄付講座を実施すること
2012(平成24)年10月19日
島根県弁護士会
会長 水野 彰子