1.  本年8月10日,社会保障制度改革推進法が成立し,附則2条において,「給付水準の適正化」を含む生活保護制度の見直しが明文で定められたことを受け,同月17日に閣議決定された「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」では,「特に財政に大きな負荷となっている社会保障分野についても,これを聖域視することなく,生活保護の見直しをはじめとして,最大限の効率化を図る。」とされた。
     これらの事実から,来年度予算編成過程において,厚生労働大臣が生活保護基準の引下げを行うことは必至の情勢である。
     これまでも,生活扶助基準額は2003(平成15)年4月1日,対前年度比0.9パーセント引下げられ,翌2004(平成16)年4月1日,さらに対前年度比0.2パーセント引下げられたほか,老齢加算や母子加算も廃止されており,保護基準は既に相当引下げられている。この上,さらに生活保護基準を引下げるのであれば,日本国憲法13条が保障する幸福追求権及び日本国憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の理念を蔑ろにし,これらを放棄することにもなりかねない。

     
  2.  生活保護基準は,わが国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。生活保護基準が下がれば,最低賃金の引上げ目標額が下がり,労働者の労働条件に大きな影響が及ぶ。また,生活保護基準は,地方税の非課税基準,介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準,就学援助の給付対象基準など,多様な施策の適用基準に連動しており,その引下げは,現に生活保護を利用している人が苦しむだけでなく,国民生活全般に大きな影響を及ぼすのである。

     
  3.  このような生活保護基準の重要性に鑑みれば,財政目的の「はじめに引下げありき」で,軽々に決されることなど到底許されるものではない。
     なお,厚生労働省は,低所得者世帯の消費支出と生活保護基準の比較検証を言う。しかし,平成22年4月9日付けで厚生労働省が公表した「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」によれば,生活保護の補足率(制度の利用資格のある者のうち,現に利用できている者が占める割合)は,2割ないし3割程 2 度と推測されるから,生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が相当多数に上ることは明らかであり,低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然であるから,これを根拠に生活保護基準を引下げることは背理である。

     
  4.  以上から,島根県弁護士会は,基本的人権の尊重及び生存権保障の憲法理念を擁護し,貧困の拡大を阻止するという社会正義を実現するため,生活保護基準の引下げに反対するものである。

2012(平成24)年11月19日
島根県弁護士会
会長 水野 彰子