本年12月6日,「生活保護法の一部を改正する法律」(以下「改正法」という。)が成立した。
改正法には,1.違法な「水際作戦」を合法化し,2.保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼすという看過しがたい重大な問題がある。そのため,日本弁護士連合会は,本年5月17日に「生活保護の利用を妨げる『生活保護法の一部を改正する法律案』の廃案を求める緊急会長声明」を,本年10月17日に「改めて生活保護法改正案の廃案を求める会長声明」をそれぞれ公表し,また,島根県弁護士会においても本年6月21日に「生活保護改正法案に強く反対する会長声明」を公表し,繰り返し廃案を求めてきたにもかかわらず,改正法が成立したことは誠に遺憾である。

 審議の過程において,政府は,申請の際に申請書及び添付書類の提出を求める改正法24条については,1.従前の運用を変更するものではなく,申請書及び添付書類の提出は従来どおり申請の要件ではない,2.福祉事務所等が申請書を交付しない場合も但書の「特別の事情」に該当する,3.給与明細等の添付書類は可能な範囲で提出すればよく,紛失等で添付できない場合も但書の「特別の事情」に該当する旨答弁した。また,扶養義務者に対する通知義務の創設や調査権限の拡充を定めた改正法24条8項,28条及び29条については,明らかに扶養が可能な極めて限定的な場合に限る趣旨である旨答弁し,以上両趣旨を厚生労働省令等に明記し,保護行政の現場に周知する旨繰り返し答弁してきた。

 しかし,改正法の法文が一人歩きし,違法な「水際作戦」がこれまで以上に,助長,誘発される危険性が払拭されたとは言い難い。改正法の施行によって,生活保護の利用が抑制され,餓死・孤立死・自死等の悲劇が増加する事態が強く懸念される。現に,本年11月12日の参議院厚生労働委員会における採決では,水際作戦等を防止するために,「いわゆる『水際作戦』はあってはならないことを,地方自治体に周知徹底する」等の7項目の附帯決議が付されている。そして,厚生労働大臣は,同委員会における審議の過程で,生活保護受給者数,人口比受給率,生活保護開始率,餓死・孤立死等の問題事例の動向を踏まえ,問題があれば5年後の見直しの際に十分考慮する旨答弁し,同旨の附帯決議もなされている。

 島根県弁護士会は,国に対し,改正法の施行により,申請書を交付しない,添付書類が揃わない限り有効な申請とは扱わない,扶養義務者への援助を求めて門前払いする等の,申請権を侵害する違法な運用が拡大しないようにするため,上記国会答弁及び附帯決議の趣旨を十分に踏まえ,各地の福祉事務所等の誰でも手に取れる場所に申請書を備え置くことを求めるとともに,改正法を理由として申請権を侵害する運用を行わないよう,各自治体の福祉事務所等に周知徹底することを強く求める。また,改正法の施行による影響を逐次に把握するよう努め,問題が生じれば,5年の見直し期間の経過を待つことなく直ちに改正法を見直すことを強く求める。そして,島根県弁護士会としても,改正法の施行により違法な「水際作戦」が増加することとならないよう厳しく監視することはもちろん,膨大な「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない層)」をなくし,生活保護制度の「捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)」を高め,憲法の生存権保障を実質化するための真にあるべき生活保護制度の改善に向けた取組を,より一層強化する決意である。

2013(平成25)年12月9日
島根県弁護士会
会長 大野 敏之