行政書士法改正に反対する会長声明
2014(平成26)年6月9日
日本行政書士会連合会は、行政書士法を改正して、「行政書士が作成することのできる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立てについて代理すること」を行政書士の業務範囲とすることを求めて、行政書士法改正の運動を実施してきた。そして、2014(平成26)年3月、不服申立代理権の範囲を、現に行政書士が「作成した」書類に係る許認可等に限定し、代理権は、研修を修了した「特定行政書士」に限り与えるとの修正を加えた改正案を作成し、これが、直近の国会において、議員立法として、提出される可能性がある。
しかし、行政書士に行政不服申立代理権を付与することについては、日本弁護士連合会が2012(平成24)年8月10日に、反対の立場を表明する会長声明を公表したのを受け、その後全国で複数の単位弁護士会が同様の会長声明を公表し、さらには、日本司法書士会連合会など各士業団体が反対の意思を表明しているように、国民の権利利益の擁護を危うくするおそれがあるものであり、容認できない。
行政書士に行政不服申立代理権を付与することの問題点は、今回の修正によっても解消されるものではなく、当会としても、以下の理由で、反対の意見を表明するものである。
第一に、行政書士の主たる業務は、行政手続の円滑な実施に寄与することを目的として、行政庁に対する各種許認可関係の書類を作成して提出することである。他方で、今回の改正案で行政書士が業務範囲に含めようとする行政不服申立制度は、行政庁の違法又は不当な行政処分を是正し、国民の権利を守るためのものである。このように、行政不服申立制度は、行政書士業務とは性質上、相容れないものである。
第二に、行政不服申立事件の代理人を務めるにあたっては、行政訴訟の提起も十分視野に入れて行う必要があるところ、行政書士は、行政事件訴訟法や民事訴訟法の素養が制度上担保されておらず、行政不服申立事件の代理人を務める能力に欠けると言わざるを得ない。今回の修正案には、代理権を付与する要件として、研修を修了したことが追加されているが、研修内容等は日本行政書士会連合会の会則などにより定めるとされ、他士業と異なり、国が何ら責任を負わない制度設計になっていることに照らすと、たとえ研修の修了を要件に追加したとしても、かかる能力の担保がされていないことに変わりはない。
第三に、行政書士についても倫理綱領が定められているものの、その内容は、当事者の利害や利益が鋭く対立する紛争事件を取り扱うことを前提にしている弁護士倫理とは異なっている。行政不服申立事件は、国民と行政庁が激しく対立する紛争事案であり、このような事案の処理を扱うだけの職業倫理が行政書士には備わっているとは言えない。
第四に、弁護士は、例えば、出入国管理及び難民認定法、生活保護法、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に基づく行政手続について、日本弁護士連合会が日本司法支援センターに事務委託して実施している法律援助事業を利用するなどして、行政庁による違法又は不当な行政処分から社会的弱者を救済する実績を確実に挙げている。したがって、この分野において、ことさら行政書士に代理権を付与しなければならないという社会的必要性がない。
2014(平成26)年6月9日
島根県弁護士会
会長 射場 か よ 子