1.  2015(平成27)年3月13日、内閣は国会に対し、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律等の一部を改正する法律案」を提出した。
  2.  今回の改正案は、現行制度における派遣先業務に応じた派遣労働者の受入れ期間制限の区別(いわゆる『26業務』には期間制限がかからず、その他の業務には最長3年の期間制限がかかる)を廃止し、新たに、事業所単位の期間制限および個人単位の期間制限の制度を設けるものとしている。
     そして、この事業所単位の期間制限においては、派遣先の同一の事業所における派遣労働者の受入れの上限を3年としながらも、過半数労働組合等からの意見聴取を経た上で、意見に対する対応方針等の説明義務を果たせば、3年の上限を超えた受け入れが可能とされている。
     この点、労働者派遣法は、制定当時から常用代替防止の原則を採用し、派遣労働を臨時的・一時的な場合に限定するとともに、派遣期間を制限してきた。 その趣旨は、雇用と使用が分離される間接雇用には、労働者の地位を不安定にし労働基準法等に定める雇用主の責任を曖昧にする弊害があるため、間接雇用である労働者派遣の認められる場合を限定するところにある。
     そこで、現行制度は、専門的な知識や特別の雇用管理が必要と考えられるいわゆる「26業務」についてのみ派遣可能期間の上限を設けないこととする一方で、それ以外の業務については臨時的・一時的な場合に限定する趣旨で派遣先の業務ごとに最長3年という派遣期間の上限を設けてきた。  
     ところが、今回の改正案は、上記のような専門「26業務」とそれ以外の業務による区別を廃止して、派遣労働を臨時的・一時的な場合に限定するという常用代替禁止の原則の趣旨を没却するものである。 また、3年を超えて派遣労働者を受け入れるためには過半数労働組合等からの意見聴取が必要としているが、たとえ意見があったとしても課されるのは当該意見に対する対応方針等の説明義務にすぎず、常用代替禁止の原則の趣旨を担保する効果は不十分という外ない。
  3.  他方で、本改正案は、派遣期間終了時の派遣労働者の雇用安定措置を派遣元に義務付けるとしている。
     しかし、この雇用安定措置にしても、「派遣先への直接雇用の依頼」義務であったり、派遣期間が1年以上3年未満の場合には努力義務とされているに過ぎないのであって、実効性に乏しい。  
     また、派遣元で無期雇用されていても派遣先の有無等により雇用が左右されることは否定できず、直接雇用労働者と比べて低賃金であるなど、労働条件が劣る場合は多い。
  4.  このように今回の改正案は、「厚生労働大臣は労働者派遣法の運用に当たり、派遣就業が臨時的・一時的なものであることを原則とするとの考え方を考慮する。」とはするものの、その実態は常用代替防止の理念を放棄するものであって、低賃金で地位の不安定な非正規雇用労働者を更に増大させ、格差の拡大を招くものである。
     よって、当会は、今回の改正案に強く反対するものである。

2015(平成27)年5月19日
島根県弁護士会
会長 熱田 雅夫