2016(平成28)年3月25日,大阪拘置所及び福岡拘置所において,各1名に対して死刑が執行された。今回の死刑執行は,岩城光英法務大臣による2度目の死刑執行であり,第2次安倍内閣以降,死刑が執行されたのは2015(平成27)年12月18日以来9回目で,合わせて16人になる。

 死刑は,最も基本的な人権である生命に対する権利を否定する究極の刑罰であり,ひとたび執行されてしまえば,誤判に基づき死刑判決がなされた場合には,取り返しがつかない。

 いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件及び島田事件という4つの死刑確定事件に対する再審無罪判決,また,いわゆる足利事件及び布川事件という無期懲役刑確定事件に対する再審無罪判決が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。

  更に,2014(平成26)年3月27日には,静岡地方裁判所が袴田巖氏の第2次再審請求事件について,再審を開始し,死刑及び拘置の執行を停止する決定をした。この,いわゆる袴田事件の再審開始決定がなされたことは,死刑確定事件であってもえん罪の疑いの強い事件が,現在でも,なお,存在することを一層明らかにしている。

 死刑の廃止は国際的な趨勢であり,世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っている。死刑を存置している国は58か国であるが,2014年に実際に死刑を執行した国は更に少なく,日本を含め22か国であった。いわゆる先進国グループであるOECD(経済協力開発機構)加盟国(34か国)の中で死刑制度を存置している国は,日本・韓国・米国の3か国のみであるが,韓国は17年以上にわたって死刑の執行を停止し,米国の19州は死刑を廃止しており,死刑を国家として統一して執行しているのは日本のみである。こうした状況を受け,国際人権(自由権)規約委員会は,2014(平成26)年7月24日,日本政府に対し,死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。

  更に,2014(平成26)年12月18日,国連総会において,全ての死刑存置国に対し,「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停止」を求める決議が,過去最多数である117か国の賛成多数で採択されている。

  こうした国際的な趨勢及び国連関係機関から死刑執行の停止・死刑制度の廃止に向けた措置を検討するように勧告を受けながらも,死刑制度を存置し,かつ死刑の執行を繰り返す日本政府の姿勢は際立っている。

  2014(平成26)年11月に実施された死刑制度に関する政府の世論調査の結果,「死刑もやむを得ない」との回答者が80.3%を占めたものの,そのうち40.5%は「将来的には,死刑を廃止してもよい」としており,将来的にも死刑を存置すべきとする意見は,全体の約46%であった。この結果からも死刑廃止について議論する必要性があると言える。

  日本弁護士連合会は,2015(平成27)年12月9日,岩城光英法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査の上,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,全ての死刑の執行を停止すること等を求めていた。

  このような状況における死刑執行は極めて遺憾であり,当会としても到底容認することができない。

 当会は,政府に対し,これまでの死刑執行に対しても強く抗議し,死刑執行の停止を求めてきたところであるが,今回の死刑執行に対し強く抗議するとともに,改めて,死刑に関する情報を広く国民に公開し,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討及び見直しに関する,真に,広く国民に開かれた全社会的議論の開始を求めるとともに,議論が尽くされるまでの間,死刑執行を停止するよう,強く求めるものである。                  

2016(平成28)年4月25日
島根県弁護士会
会長 安藤 有理