1.  平成28年7月28日,中央最低賃金審議会は,今年度の最低賃金の引上げ額の目安を答申した。これによれば,島根県はランクDに位置づけられ,引上げ額の目安は21円とされた。
     そして,去る平成28年8月2日,島根地方最低賃金審議会は,島根労働局長に対し,上記の中央最低賃金審議会の引上げ額の目安を踏まえ,島根県における1時間あたりの最低賃金を696円から718円に改定することが適当であるとの答申を行った。この答申を踏まえた改定は,平成28年10月1日に効力を生じる予定となっている。
  2.  最低賃金制度は,「賃金の低廉な労働者について,賃金の最低額を保障することにより,労働条件の改善を図り,もつて,労働者の生活の安定,労働力の質的向上」等を目的としているものである(最低賃金法第1条)。この制度は,「すべての労働者を不当に低い賃金から保護する安全網(セーフティネット)」として位置づけられるべきものであり,最低賃金を基準にしてフルタイムで働いた場合に,労働者が人間らしい生活を営むことができる程度の賃金を得られることができるよう制度を運用することが求められる。
     しかしながら,今回の島根県における最低賃金の改定結果をみても,改定後の最低賃金である1時間あたり718円を基準に,1日8時間,月22日働いた場合の賃金を計算しても,1か月12万6368円にしかならず,労働者が日常生活を営むに足りるだけの水準が確保されているとはいいがたい。
  3.  また,島根県の最低賃金の金額は,全国的な水準に照らして低い状態が続いている。すなわち,平成28年度の最低賃金の全国加重平均額は823円になるが,今年の改定後の島根県における最低賃金額はこれを105円も下回っている。さらに,東京都の最低賃金審議会の答申によると,今年の改定による東京都の最低賃金は932円となることが見込まれているところ,最低賃金の最も高い東京都と比較してみても,島根県の今年の改定後の最低賃金額はこれを214円も下回っていることになる。
     島根県においては,若年労働者が都市部へ流出するという傾向が続いているが,上記のような格差がこのような現象の一因をなしているものと考えられる。島根県のみならず,全国的なレベルでみても,地方の活性化を図るためにもこの格差を解消することが重要である。
  4.  他にも,最低賃金の引上げにより,労働者の離職率を下げ,新規採用・訓練のコストを減らし,生産性の向上につながること,さらに,賃金が消費に回り地域的及び全国的な経済成長につながることなどのメリットも見込まれるのであり,この点からも最低賃金の大幅な引上げが求められる。
  5.  以上のとおり,今年の中央最低賃金審議会の答申及び島根地方最低賃金審議会の答申による最低賃金の引上げ額は少額に過ぎるというべきであり,当会としては,来年の最低賃金額の改定において大幅な引上げを求めるものである。

2016(平成28)年8月30日
島根県弁護士会 会長 安藤 有理