本年6月15日,「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(以下,「本法律」という。)は,参議院法務委員会での採決を省略するという異例な手続により,参議院本会議において,採決が行われ,成立した。政府は,この法律を「テロ等準備罪」と呼んでいるが,その実態はいわゆる「共謀罪」に他ならない。

 当会は,いわゆる共謀罪法案は,基本的人権を侵害し,捜査権の濫用を助長するものとして,2005(平成17)年8月5日,2006(平成18)年5月17日,2015(平成27)年3月31日及び2017(平成29)年2月27日に,その問題点を指摘した上で,法案に反対する会長声明を発しその危険性を訴えてきた。また,本法律に対しては,日本弁護士連合会や各地の弁護士会から制定に反対する声明や意見が出され,国連人権理事会特別報告者であるジョセフ・カナタチ氏からも懸念を表明する書簡が発出されていた。

 本法律において新設される「テロ等準備罪」では,犯罪を「計画」した段階で犯罪が成立する内容となっている。現行刑法は犯罪結果の発生に至った既遂処罰を原則とするが,「計画」段階は,既遂犯からすると「前々々」段階で処罰するものであり,現行刑法を根底から変容させるものである。また,政府が歯止めとする「準備行為」は,処罰の条件にすぎない。「計画」の時点から犯罪捜査の対象になることからすれば,依然として,犯罪を共同して実行する意思を処罰の対象としていることと実質的に変わらず,憲法が保障する思想信条の自由,表現の自由,プライバシー権など基本的人権を侵害する危険性を孕んでいる。

 さらに,本法律の政府答弁からは,例えば,一般市民が捜査の対象になるか否か,「組織的犯罪集団」に「一変」した場合の基準などは,判然とせず,処罰対象について誰がどのような犯罪で処罰されるのか明らかでなく,罪刑法定主義(憲法31条)の観点からも極めて問題である。

 上記のような問題があるにもかかわらず,本法律は,参議院法務委員会での採決を省略するという異例な手続により,参議院本会議において,採決が行われている。国会法では,法案は,法務委員会において審議・採決され,その後,本会議において採決されるのが原則であるが,例外的に「特に必要があるとき」は,中間報告を求めることができ(国会法56条の3第1項),議院が「特に緊急を要すると認めたとき」は,委員会の審査に期限を附けまたは議院の本会議において審議することができる(同条第2項)とされている。しかしながら,本法律については,参議院法務委員会で審議が続けられていたのであって,中間報告を求めるべき必要性や本会議において審議する「特に緊急を要する」事情が存したとは認められない。

 本法律は,我が国の刑事法の体系や基本原則を根本的に変更するという重大な内容であるにもかかわらず,十分な審議がなされず,参議院においては上記のとおり異例な手続を経て,成立に至ったことは極めて遺憾である。

 よって,当会は,過去3回も廃止になりながら,十分な審議を経ずして,中間報告という例外規定まで用いて採決が強行された本法律の成立に対して,強く抗議し,本法律の廃止を求める。

2017(平成29)年7月3日
島根県弁護士会 会長 岸田 和俊