近年、鹿児島選挙違反事件(志布志事件)、富山強姦事件(富山・氷見事件)など、密室の取調室の中で、脅迫、不当な誘導などの違法捜査により虚偽の自白調書が作成され、それに基づき無実の人間が起訴され長期間身柄を拘束されるという冤罪事件が続けて発生している。これらの冤罪事件は、いずれも取調べの全過程が録画・録音されていれば未然に防止できたものである。欧米諸国をはじめ、韓国、香港、台湾などの近隣諸国においても、取調べの過程を客観的に検証することが可能な法制度が整備されており、我が国の取調べ可視化に関する刑事司法は世界の潮流から大きく立ち後れていると言わざるをえない。

 また、来年5月から施行される裁判員裁判までに取調べの可視化が実現されなければ、裁判の中で自白調書の信用性に争いが生じた場合、密室の中でどのような取調べが行われたかを裁判員が客観的に検証し心証形成することは極めて困難となり、取調べにあたった捜査官や被告人に取調べの状況を延々と質問するような水掛論的な証拠調べが行われれば裁判の長期化も懸念される。

 現在、捜査機関は、取調べの「一部」録画・録音を試行しているが、録画・録音がなされていない場面については全く問題の解決になっていないだけでなく、捜査機関にとって都合のよい自白獲得後の場面のみが録画・録音され自白に至った経過が録画・録音されないときは、かえって自白の信用性判断を誤る危険性が増大する。また、捜査機関は2008(平成20)年に入って取調べ適正化のための監督制度を導入するに至ったが、同じ組織内の身内による監督にすぎず、密室の取調べの弊害を解消するものとは到底いえない。

 2008(平成20)年6月4日、参議院において、被疑者の取調べの全過程の録音・録画を捜査機関に義務づけ、これに違反して作成された供述調書の証拠能力を否定する法案が可決されたが、同法案は衆議院で審議未了廃案となり、現在に至るも取調べの可視化は実現していない。

 よって、当会は、国会に対して、取調べの全過程の録画・録音を実現させる法案を速やかに成立させることを求めるとともに、裁判所に対しては、取調べ全過程の録画・録音等の客観的な資料がない限り、その供述調書の任意性・信用性を否定する厳格な運用を確立するよう求めるものである。

2008(平成20)年12月10日
島根県弁護士会
会長 水野 彰子